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政府が「人身取引対策行動計画2026」原案 悪質ホストクラブ対策と「買う側」の摘発を明記

政府は2026年9月15日、首相官邸で人身取引対策推進会議を開き、「人身取引対策行動計画2026」の原案を取りまとめた。売掛金で多額の債務を負わせ売春などに追い込む悪質ホストクラブへの対策強化を新たに盛り込み、売春の勧誘に応じた「買う側」を摘発対象とするなどの罰則強化にも言及した。2025年に保護された人身取引被害者は78人で前年より12人増え、うち女性69人、18歳未満の児童53人。計画は近く犯罪対策閣僚会議で正式決定される見通しとなっている。

政府が「人身取引対策行動計画2026」原案 悪質ホストクラブ対策と「買う側」の摘発を明記

9月15日、首相官邸で人身取引対策推進会議

政府は2026年9月15日、首相官邸で閣僚級の人身取引対策推進会議を開催し、「人身取引対策行動計画2026」の原案を取りまとめた。会議を主宰した木原稔官房長官は、人身取引について「精神的、肉体的な苦痛をもたらし、その回復が非常に困難なことから重大な人権侵害」であり、「人道的な観点からも迅速・的確な対応が必要」と述べた。時事通信、読売新聞、テレビ朝日系(ANN)がいずれも同日に報じ、首相官邸の公表資料でも会議の開催が確認できる。

首相官邸が公表した会議の概要によれば、官房長官は近年、日本人被害者の事例と割合が増加していることに触れたうえで、対策として「悪質ホストクラブへの対策の推進」と「売買春に係る規制の在り方についての検討」を挙げている。行動計画は、国際社会と連携した実態把握、入国・在留管理の徹底、被害者の認知と支援、取締り、アジア諸国等との連携強化の5点を柱としている。

原案はこの日の会議で了承された段階であり、近く開かれる犯罪対策閣僚会議で正式決定される見通しである。

行動計画に盛り込まれた主な内容

報道と公表資料から確認できる主な項目は次のとおりである。

項目 内容
悪質ホストクラブ対策 売掛金で多額の債務を負わせ売春等に追い込む行為への取締り強化を明記
「買う側」への対応 売春の勧誘に応じた買う側を摘発対象とするなど罰則強化に言及
売買春規制の検討 近時の社会情勢を踏まえ、規制の在り方について必要な検討を進める
出入国管理 偽造されにくい電子ビザの導入拡大
相談体制 外国人がSNSで被害を相談できる環境の整備
児童への対応 児童福祉法の関係規定の重罰化の可能性を検討

このうち電子ビザの導入拡大は、昨年発覚した12歳のタイ国籍の少女が東京都内の違法な個室マッサージ店で働かされていた事件などを念頭に置いたものと報じられている。同事件では9月15日、元経営者に東京地裁が拘禁刑5年・罰金100万円の実刑判決を言い渡したばかりだった。行動計画の取りまとめと判決が同じ日に重なったかたちである。

「買う側」の摘発――売春防止法改正論議との接続

行動計画に「売春の勧誘に応じた買う側を摘発の対象とする」旨が入ったことは、現在進行中の売春防止法の改正論議と直結している。

現行の売春防止法は、売春そのものを処罰していない。第5条が公衆の目に触れる方法での勧誘等を処罰しているが、その対象は主として売る側であり、買う側は原則として処罰されない。この非対称を見直すべきだという議論が、法務省の有識者検討会「売買春に係る規制の在り方検討会」で続けられてきた。同検討会は8月24日の会合で報告書案を大筋了承しており、報告書は9月中にもまとまると報じられている(本サイトでも既報)。

行動計画にこの方向が書き込まれたことで、法務省の検討会という専門家の議論と、政府全体の対策方針が同じ線上に並んだことになる。ただし、行動計画自体は法改正そのものではない。実際に買う側を処罰するには売春防止法の改正が必要であり、そのための法案が秋の臨時国会に提出されるかどうかは、本記事作成時点では確定していない。

悪質ホストクラブ対策は、どの段階で入ったのか

注目されるのは、悪質ホストクラブ対策が「新たに盛り込む」項目として報じられている点である(時事通信)。

内閣官房副長官補付は、この行動計画の案について2026年7月27日から8月9日まで意見募集(パブリックコメント)を実施している。当サイトが同案の本文(全19ページ、6章構成)を確認した限りでは、「ホストクラブ」「売掛」「電子査証」といった語は見当たらない。人身取引の需要側に対する取組としては、性的搾取の需要側への啓発強化と雇用主等への働きかけが挙げられているにとどまり、罰則に関する記述は児童福祉法の重罰化の検討に限られていた。

したがって、悪質ホストクラブ対策と「買う側」への罰則強化、電子ビザの拡大は、意見募集の後、9月15日に示された原案の段階で加わったものとみられる。決定版の全文は本記事作成時点で公表されていないため、最終的な文言は正式決定後の公表を待つ必要がある。

この経緯が示すのは、行動計画が既存施策の棚卸しから一歩出たということである。従来の人身取引対策行動計画は、外国人技能実習制度、在留管理、水際対策といった「外国人が被害者になる経路」を中心に構成されてきた。7月時点の案文もその骨格を踏襲している。そこにホストクラブという国内・日本人被害者の経路が書き加えられた。

数字――2025年の被害者78人、うち児童53人

行動計画の前提となる被害の実態は、次のように報じられている。

  • 2025年に保護された人身取引被害者:78人(前年比12人増)
  • 性別の内訳:女性69人、男性9人
  • 国籍の内訳:日本人66人
  • 年齢:18歳未満の児童53人を含む

78人のうち日本人が66人、18歳未満が53人という構成は、「人身取引=外国人が国境を越えて連れて来られる問題」という一般的なイメージと大きく食い違う。数のうえでは、日本の人身取引被害の中心は国内の、それも未成年の少女にある。なお、これらの数字は報道によるものであり、警察庁の統計における定義(認知被害者数と保護人数)との対応関係は報道により表現に幅がある。

背景――「人身取引」という枠で性風俗を見るということ

ホストクラブの売掛金が性風俗での稼働につながる構図は、2023年に国会で取り上げられて以降、繰り返し報じられてきた。改正風営法(2025年6月施行)は、恋愛感情を利用した高額飲食の勧誘や、債務を負わせて性風俗店で働くことを勧める行為を規制対象としたが、施行から1年余りが経った現在も「効果が出ていない」という業界側の声が報じられている。スカウトバックの高騰という別の形で歪みが移っただけではないか、という指摘もある。

今回の行動計画がこれと異なるのは、同じ問題を人身取引(trafficking in persons)という国際的な枠組みで扱おうとしている点である。人身取引は国連の議定書に定義があり、日本は米国務省の年次報告で長年、対策の不十分さを指摘されてきた。国内法の個別規制ではなく人身取引対策の文脈に置き直すことは、国際的な説明責任の面でも意味を持つ。

ただし、枠組みを変えても実務の担い手は同じである。取締りを行うのは警察であり、保護を担うのは婦人相談所などの既存機関であり、被害者の多くは自分を被害者と認識していない。行動計画自身が「潜在性の高い犯罪」と書いているとおり、認知されない限り数字にも支援にも表れない。

「買う側」の摘発が現実の制度になるかどうかも、これからの論点である。買春を処罰対象とする制度は、需要を減らすという期待の一方で、売る側がより見えない場所へ移る(地下化する)という副作用が各国で報告されてきた。行動計画がその論点に踏み込んでいるわけではなく、書かれているのは「検討を進める」ことまでである。実際の設計は、法務省の報告書と、それを受けた法案の中身にかかっている。


本記事は首相官邸の公表資料、時事通信、読売新聞オンライン、テレビ朝日系(ANN)等の報道、および内閣官房副長官補付が意見募集に付した「人身取引対策行動計画2026(仮称)」(案)をもとに構成しています。行動計画は9月15日時点で原案の段階であり、正式決定後の全文は本記事作成時点で公表されていません。被害者数などの統計は報道により表現に幅があります。