9月15日、東京地裁の判決
東京都文京区湯島の個室マッサージ店で、当時12歳だったタイ国籍の少女に性的サービスをさせたとして、児童福祉法違反(児童に淫行をさせる行為)などの罪に問われた元経営者・細野正之被告(52)に対し、東京地方裁判所は2026年9月15日、拘禁刑5年・罰金100万円の判決を言い渡した。検察側の求刑は拘禁刑6年・罰金200万円だった。産経新聞、共同通信、朝日新聞、テレビ朝日系(ANN)、ABEMA TIMES、弁護士ドットコムニュースなどが同日に報じている。
池上弘裁判長は、「在留資格や年齢の確認が一切ない無秩序な雇用をしていたのは、経営者である被告の責任」と述べ、少女の精神的被害を「想像を絶する」と指摘した。一方で、少女を精神的に支配して淫行を強いた母親(30)が「最も重い非難に値する」とも述べている。母親については、2026年6月29日にバンコクの裁判所が人身取引の罪で禁錮7年6月の判決を言い渡している(本サイトでも既報)。
本件の公判経過については、8月6日の論告求刑を扱った既報も参照されたい。
判決の骨格――「知らなかった」は認められた
この判決の特徴は、被告側の中心的な主張を退けずに有罪とした点にある。
被告側は一貫して「少女が12歳であることをまったく知らなかった」と述べ、無罪を求めていた。弁護士ドットコムニュースが伝えた判決の内容によれば、裁判所はこの点について、少女の母親が被告を欺いていたこと、被告は判決に至る段階まで少女の実年齢を把握していなかったことを認定している。少女の写真データについても「一見して児童であることが明らかな容貌ということもできない」と述べたとされる。
それでも有罪となったのは、児童福祉法が年齢の不知だけでは免責されない構造を採っているためである。同法第60条第4項は、児童を使用する者は児童の年齢を知らないことを理由に処罰を免れることができないと定めたうえで、「ただし、過失のないときは、この限りでない」という但書を置いている。
つまり免責されるのは「知らなかった」場合ではなく、「知ろうとする措置を尽くしたうえで、なお知り得なかった」場合に限られる。判決は、少女が稼働していた期間を通じてパスポートが一度も確認されていなかったことを認定し、この但書の要件を満たさないと結論づけた。
論点を整理すると次のようになる。
| 争点 | 判決の判断 |
|---|---|
| 被告は少女が12歳と認識していたか | 認識していなかった(母親に欺かれていた) |
| 外見から児童と分かったか | 一見して明らかとはいえない |
| 身分証(パスポート)の確認をしたか | 稼働期間を通じて一度も確認していない |
| 児童福祉法60条4項但書(過失なし)に当たるか | 当たらない=処罰を免れない |
| 採用・身分証確認を元店長に委ねていたという主張 | 排斥 |
「元店長に任せていた」はなぜ通らなかったか
被告側のもう一つの柱は、従業員の募集・採用や身分証の確認といった人事はタイ国籍の元店長(マネジャー、39)にすべて委ねていた、という分業の主張だった。
判決はこれを認めなかった。弁護士ドットコムニュースが伝えるところでは、裁判所は、被告と元店長のやり取りから両者で採用を判断していたとうかがえること、少女が働き始めた時点で元店長が来店しておらず少女と直接会ってもいなかったことなどを挙げ、確認義務が元店長に丸ごと移っていたとはいえないと判断した。
なお元店長は同じく児童福祉法違反の罪で起訴され、別途公判が続いている。両者の刑事責任の最終的な振り分けは、そちらの判決を待つことになる。
量刑――懲役相当部分は求刑の8割、罰金は半額
言い渡された刑は、求刑に対して次のような関係にある。
- 自由刑:求刑6年に対し5年(法定刑は10年以下の拘禁刑もしくは300万円以下の罰金、またはその併科)
- 罰金:求刑200万円に対し100万円
罰金が求刑の半額にとどまった理由について、判決は営業によって被告が得た経済的利益が限定的だったことを挙げたと報じられている。少女の稼働による売上の一部はタイにいる母親の口座へ送金されていたとされ、収益の流れが被告一人に集約されていなかったことが評価に影響した可能性がある。ただし、この点の詳細な認定は現時点の報道からは確定できない。
稼働の規模については、朝日新聞が33日間で約60人の客と報じている。期間は2025年6月28日から7月29日、および8月5日から8月13日とされる。事件が表面化したのは、母親が約束の期日を過ぎても迎えに来なかったため、少女が自ら東京出入国在留管理局に出向いて保護されたことによる。
背景――年齢確認義務が「刑事責任の分岐点」になる意味
この判決が実務に残すものは、量刑よりも判断の構造の方にある。
性風俗営業において、年齢確認は風営法上も課される手続である。しかし現場では、外国籍の従事者について在留資格や年齢の確認が形骸化しやすい。言語の壁、仲介者の介在、本人が身分証を所持していないケース、そして「聞かないほうが都合がよい」という経営側の消極的な動機が重なるためである。
今回の判決は、そうした環境で起きた事案について、認識(知っていたか)ではなく手続(確認したか)を刑事責任の分岐点に据えた。児童福祉法60条4項の但書は以前から存在する規定だが、被告の不知が事実として認定されたうえで但書の適用が否定され、実刑に至った例として参照されやすい形になっている。
裏を返せば、「確認を尽くしていれば免責され得た」ということでもある。判決が非難したのは、少女を働かせたという結果だけでなく、確認しないことが常態化した雇用のかたちそのものだった。池上裁判長が「無秩序な雇用」という言葉を使ったのは、その意味においてである。
もう一つ、この事件は日本の法制度の切り取り方の問題も引き続き示している。少女がタイから連れて来られ、店に置かれ、稼働させられ、売上が母国へ送金されるという一連の流れは、国際的には人身取引と呼ばれる。だが日本の刑法にそれを丸ごと捕捉する罪名はなく、実務は児童福祉法違反・風営法違反・労働基準法違反・入管法違反といった複数の法律の積み上げで対応している。本件でも、逮捕時の被疑事実は労働基準法違反(最低年齢)だった。
送り出した側である母親にタイで言い渡された禁錮7年6月と、受け入れて稼働させた側への拘禁刑5年。適用される法律も問われている立場も異なるため単純な比較はできないが、被害の中心にいた12歳の少女にとって、どちらの数字も事後の処理でしかない。判決後、少女の現在の状況について公表された情報はない。
本記事は産経新聞、共同通信、朝日新聞、テレビ朝日系(ANN)、ABEMA TIMES、弁護士ドットコムニュース等の報道をもとに構成しています。判決内容の細部は報道により表現に幅があり、判決文そのものは本記事作成時点で公表されていません。控訴の有無は本記事作成時点で明らかになっていません。