警視庁が公表した数字
警視庁少年育成課は2026年9月8日、都内で摘発した未成年者被害の性犯罪事件について、その約4分の1が新宿・歌舞伎町のホテルや旅館で発生していたことを明らかにした。共同通信が同日午後に配信し、朝日新聞、東京新聞、テレビ朝日系各局などが相次いで報じた。
集計の対象は、児童福祉法違反や不同意性交など性犯罪に関連する5つの容疑で、被害者が18歳未満であり、かつ被害に遭った場所を警察が把握できていた事件である。
| 期間 | 対象事件の総数 | うち歌舞伎町 | 割合 |
|---|---|---|---|
| 2025年(1年間) | 100件 | 26件 | 約26% |
| 2026年上半期 | 63件 | 18件 | 約29% |
2026年上半期の63件という数字は、半年で前年1年分の6割超に達しており、歌舞伎町の占める比率も下がっていない。件数・比率のいずれも改善の兆しが見えないまま推移していることになる。
なお、この集計はあくまで「警視庁が検挙し、かつ被害場所を認知できた事件」に限られる。被害を申告できていないケースは数字に入らないため、実態はこれより広いと考えるのが自然だ。公表された数値は、氷山のうち水面上に出た部分の内訳を示したものと位置づけるのが妥当である。
一斉補導で39人
少年育成課は、こうした被害と非行を防ぐ目的で、8月29〜30日と9月5〜6日の2回、いずれも夜間から翌朝にかけて歌舞伎町で一斉補導を実施した。深夜徘徊などを理由に補導されたのは、14〜19歳の男女39人である。
報道によれば、補導された少年少女の居住地は茨城、埼玉、東京、神奈川、三重、島根の1都5県にまたがっていた。関東近県だけでなく、三重・島根といった遠方からの来訪者が含まれている点が、この場所の吸引力の広がりを示している。
テレビ朝日系の報道は、補導時の具体的な状況として次の2件を伝えている。
- 都内に住む15歳の少女が、薬物を大量摂取する「オーバードーズ」の目的で睡眠薬16錠を所持していた
- 中学3年・14歳の少女が、年齢を偽造した学生証を持っていた
偽造学生証は、年齢確認を求められる場面を突破するための道具である。深夜の滞在や、本来入れないはずの場所への出入りが、こうした小道具によって現実に可能になっていたことを示唆する。
一斉補導の実施時期が新学期の始まりに重なっている点も、報道では触れられている。長期休暇明けに家庭や学校から離れる子どもが増える時期を狙った対応とみられる。
「トー横」という結節点
歌舞伎町一番街に近い新宿東宝ビル周辺、通称「トー横」は、家庭や学校に居場所を持たない10代が集まる場所として2020年代前半から知られてきた。今回の数字は、その周辺が単なる「たまり場」ではなく、性被害の発生現場と直結していることを行政の統計として裏づけた形になる。
東京新聞は今回の発表を「『トー横』が性的搾取の現場に」と見出しで表現し、朝日新聞も「警視庁が警戒」と伝えた。被害の場所としてホテル・旅館が挙がっていることから、路上での接触から短時間で宿泊施設へ移動する経路が繰り返し成立していることがうかがえる。
少年育成課の担当者は、次のように呼びかけている。
「性的搾取を目的とした悪意ある大人がいるので、安易に歌舞伎町地区に近づかないでほしい」
この呼びかけは、集まる側の子どもに向けられている。一方で、実際に検挙されているのは加害する側の大人であり、対策の力点をどちらに置くかは、以前から議論が分かれてきた論点でもある。
対策の構図と限界
歌舞伎町をめぐっては、東京都と警視庁がここ数年、複数の枠組みで対応を重ねてきた。東京都は未成年の犯罪被害防止を目的とした啓発サイトを設け、警視庁は繁華街での一斉補導と、児童買春・児童福祉法違反の摘発を並行して進めている。
ただ、補導は「その場から帰す」措置であり、帰る先の状況が変わらなければ再び戻ってくる。1都5県から集まっているという事実は、問題が新宿区内で完結しないことを意味しており、居住地側の福祉・教育との接続がなければ効果が続きにくい。
もう一つの構造的な難しさは、接触の経路がオンラインに移っている点である。街頭で声をかけられるより先に、SNSや匿名の通話アプリで関係ができ、待ち合わせ場所として歌舞伎町が選ばれる。この場合、繁華街での補導は接触の最終段階にしか介入できない。今回公表された「被害場所が歌舞伎町のホテル・旅館」という統計は、経路の終点を捉えたものであり、起点はその外側にある可能性が高い。
背景
歌舞伎町の未成年をめぐる問題は、性風俗・接待飲食業の周辺構造と切り離せない。2025年に施行された改正風営法は、ホストクラブなどが客の恋愛感情につけ込んで売春や性風俗店での勤務を求める行為を禁じ、風俗店側からスカウトへの紹介料支払い(いわゆるスカウトバック)も禁止した。違法スカウト集団の摘発も各地で続いている。
これらはいずれも、18歳以上の女性が債務や勧誘を経て性風俗へ流れる経路を断つための規制である。今回の統計が示しているのは、その手前にある層——まだ働くことすらできない年齢の子どもが、同じ街で直接の被害に遭っているという事実だ。規制の網が業として営まれる部分にかけられている一方で、業の外側で個人の大人が未成年に接近する部分は、事後の検挙に頼らざるを得ない。
売春防止法の見直し議論では、買う側の勧誘行為を新たに規制対象とする方向が検討されている。ただし18歳未満に対する行為は、もともと児童買春・児童ポルノ禁止法や児童福祉法で重く処罰される領域であり、法定刑の不足が問題の中心ではない。争点は、被害が起きる前にどう届くかという点にある。
歓楽街が担ってきた「誰も素性を問わない」という性質は、居場所を失った子どもにとっては受け皿として機能し、同時に加害する側にとっては匿名性の隠れ蓑になる。今回の4分の1という数字は、その二面性がどちらに傾いているかを示す指標として受け止めるべきものだろう。
本記事は共同通信、朝日新聞、東京新聞、テレビ朝日(テレ朝NEWS)、ABEMA TIMES、ライブドアニュース等の報道をもとに構成しています。数値は警視庁少年育成課が2026年9月8日に公表したものとして報じられた内容です。補導時の個別事例は報道による記述であり、事実関係の評価が確定したものではありません。