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法務省検討会が売春防止法見直しの報告書を決定 「買う側」の勧誘・うろつき・SNS勧誘を処罰対象に、罰金上限も引き上げへ

法務省の有識者会議「売買春に係る規制の在り方検討会」は2026年9月17日の第9回会合で報告書を決定した。1956年制定の売春防止法が「売る側」の勧誘だけを処罰し「買う側」に罰則がない不均衡を是正するとして、相手方を求めてうろつく行為、周旋を求める行為、SNSでの勧誘、売る側の勧誘に応じる行為などを新たな規制対象に挙げた。現行の「6月以下の拘禁刑または2万円以下の罰金」は抑止の観点から不十分だとして罰金上限の引き上げも求める一方、売春行為そのものの処罰化は「慎重な検討が必要」として見送っている。法務省は秋の臨時国会への改正案提出を視野に検討を加速する。

法務省検討会が売春防止法見直しの報告書を決定 「買う側」の勧誘・うろつき・SNS勧誘を処罰対象に、罰金上限も引き上げへ

9月17日、検討会が報告書を決定

法務省の有識者会議「売買春に係る規制の在り方検討会」は2026年9月17日に開いた第9回会合で、売春防止法の見直しに関する報告書を決定した。共同通信が同日午後4時10分、産経新聞が同4時9分、日本経済新聞が同4時45分、時事通信が同6時28分、毎日新聞が同2時42分にそれぞれ報じている。

同検討会は2026年3月24日に初会合を開き、約半年・9回の議論を経て結論に至った。法務省は報告書を踏まえ、具体的な罪名や構成要件を内部で詰めたうえで、秋の臨時国会への改正案提出を視野に検討を加速するとしている。

当サイトでは8月24日の報告書案の段階、および9月14日時点の取りまとめ見通しについても報じてきたが、今回はその内容が正式な報告書として確定した段階にあたる。

何が問題とされてきたのか

現行の売春防止法は1956年(昭和31年)に制定された法律で、売春を「対償を受け、又は受ける約束で、不特定の相手方と性交すること」と定義し、条文上は売る行為も買う行為もともに禁止している。

ところが罰則が設けられているのは片側だけである。

現行法の扱い
売る側の勧誘・客待ち 6月以下の拘禁刑または2万円以下の罰金(勧誘等罪)
買う側の勧誘行為 罰則なし
売春行為そのもの 禁止されているが、売買どちらにも罰則なし

つまり、路上に立って声をかければ女性側は検挙されうるが、同じ路上でそれを買おうと声をかけた男性側には適用される罰条がない。この構造は「事実上、女性側だけを取り締まる法律になっている」と長く批判されてきた。毎日新聞によれば、報告書は「社会の風紀を乱す点で売る側と買う側の勧誘は異ならない」として、この処罰の不均衡を是正する必要があると明記した。

報告書が挙げた「買う側」の規制対象

各紙の報道を総合すると、報告書が処罰対象になりうる行為として具体的に挙げたのは次のような類型である。

  • 相手方を求めてうろつく行為(買春目的で路上を徘徊し、相手を探す行為)
  • 周旋を求める行為(仲介者に相手のあっせんを依頼する行為)
  • SNSやインターネットを通じた勧誘
  • 売る側からの勧誘に応じる行為

いずれも「行為そのもの」ではなく、その手前の勧誘・接触の段階を捉えるという設計になっている点が特徴である。路上とネットの両方を射程に入れた点も、近年の実態を反映したものといえる。

罰則の水準についても、報告書は現行の上限が「犯罪抑止の観点から不十分」だとして、罰金上限の引き上げを求めた。2万円という額は1956年制定当時から実質的に据え置かれてきたもので、現在の物価水準では抑止力として機能していないとの指摘が続いていた。

一方で、売る側の勧誘等罪については「社会の風紀を乱す」ことを理由に存置する方向が示された。廃止ではなく、買う側を加えることで均衡を取る、という整理である。

見送られた論点

報告書は、踏み込まなかった部分も明示している。

産経新聞・日本経済新聞によれば、売春行為そのものの処罰化、および処罰範囲を現行の定義以上に広げることについては、検討会は慎重な姿勢を取った。理由として挙げられたのは、

  1. 保護や支援を必要とする当事者が、処罰を恐れて福祉的支援につながれなくなる懸念
  2. 処罰化が性売買を地下化させ、当事者の立場をかえって脆弱にする懸念

の2点である。報告書は同時に、処罰の強化と並行して支援・福祉の体制整備を進めるべきだとしている。

また実務上の課題として、「買う目的でうろついていた」という故意の立証の難しさが指摘された。どの行為を処罰対象とするかを条文上明確に定義しなければ、恣意的な運用や、逆に空振りに終わる規定になりかねない。この点は法務省が今後の立案作業で詰めることになる。

現場ではどう受け止められているか

報告書決定の翌9月18日、日本テレビ系(NNN)は東京・歌舞伎町で路上に立つ女性たちを取材したルポを配信した。

登場する19歳の女性は、無職で自分に経済的に依存していた交際相手から「体を売らないなら別れる」と言われたことをきっかけに立つようになったと語る。現在は1日3〜4人の客を取り、月20万円以上を得ているという。「まとまったお金が必要だった。店で働くより稼げる」「引っ越し費用と美容整形のために貯めている。この稼ぎ方を知ってしまうと頼ってしまう」という趣旨の証言が紹介されている。

同じ取材では、女性に声をかけていた20代の男性が「値段が気になった」と述べ、なぜ断られるのかを尋ねる様子も伝えられた。

支援団体側からは罰則化を「大きな力」と評価する声が出ている一方、路上に立つ理由が経済的困窮や交際相手からの圧力にある場合、買う側を罰するだけでは入口が塞がれないという構図も、この取材からは浮かび上がる。

背景

売春防止法は制定から70年を経ているが、実質的な改正はほとんど行われてこなかった。2022年に困難女性支援法(困難な問題を抱える女性への支援に関する法律)が成立し、同法の施行に伴って売春防止法の「保護更生」規定(婦人相談所・補導処分など)が切り離された経緯はあるが、勧誘等罪を含む刑事規制の部分は制定時の枠組みのまま残されていた。

今回の見直しが動いた背景には、複数の流れが重なっている。

  • 路上売春の可視化:大久保公園周辺をはじめとする路上での客待ちが社会問題として繰り返し報じられ、取り締まりの対象が女性側に偏っていることへの批判が高まった
  • 悪質ホストクラブ問題:売掛金による債務を負わせて性風俗や売春に追い込む構造が問題化し、2026年6月末施行の改正風営法に続く形で、入口側・出口側双方への規制論が強まった
  • 人身取引対策:政府は9月15日に「人身取引対策行動計画2026」の原案を取りまとめ、売春の勧誘に応じた「買う側」の摘発にも言及しており、法務省の検討と歩調が合っている
  • 国際的な潮流:買う側のみを処罰するいわゆる「北欧モデル」を採る国が増える一方、2004年に性売買特別法を施行した韓国では地下化の指摘も出ており、どの制度設計が当事者の安全に資するかは国際的にも結論が出ていない

報告書が「買う側の勧誘」という限定された範囲にとどめ、売春行為そのものの処罰化を先送りしたのは、この未決着の論点を立法の場に持ち越した結果とも読める。

実際の影響は、今後まとめられる条文がどこまで行為を特定できるかにかかっている。「うろつき」「勧誘に応じる」といった行為をどう定義するかによって、路上の光景が変わるのか、それとも接触の場がSNSやより見えにくい場所へ移るだけなのかが分かれる。臨時国会に法案が提出されれば、1956年以来初めて、この法律の刑事規制部分が国会で正面から議論されることになる。


本記事は共同通信、産経新聞、日本経済新聞、時事通信、毎日新聞、日本テレビ系(NNN)、および法務省「売買春に係る規制の在り方検討会」の公表資料をもとに構成しています。