報じられた内容
集英社オンラインは2026年8月14日、東京・新宿の歌舞伎町にある大久保公園周辺を取材し、売春目的で路上に立つ女性(いわゆる「立ちんぼ」)の姿が、2026年夏にはほとんど見られなくなっているとする記事を配信した。翌15日には続編として、公園周辺に残る「買う側」の男性たちに取材した記事を公開している。
同記事によると、公園近くの飲食店従業員は「2、3年前は多いときで50人くらい立っていたが、1年ほど前からめっきり見なくなった」と話している。取材時には、写真を撮ろうとカメラを手に公園周辺をうろつく外国人観光客が、目当ての光景を見つけられずにいる様子も伝えられた。
ただし記事は、街頭での売買春そのものが新宿から消えたとはしていない。女性たちは公園の敷地から離れ、ホテルの入り口付近、病院の建物の前、ビルとビルの隙間といった場所に分散し、一か所に長く留まらない形で客を待つようになったと報じている。
検挙数の推移
警視庁が公表してきた大久保公園周辺での売春防止法違反(客待ち)の検挙数は、次のように推移している。
| 年 | 検挙人数 | 備考 |
|---|---|---|
| 2023年 | 140人 | 摘発が本格化した年 |
| 2024年 | 97人 | 前年から43人減 |
| 2025年 | 112人 | 前年から15人増 |
| 2026年上半期 | のべ40人 | 1〜6月、最年少16歳 |
2025年分については、共同通信や日本テレビ系(NNN)が2026年3月に報じている。それによると、検挙された112人の平均年齢は25歳、最年少は16歳で、10代は14人と前年から11人増えた。動機として最も多かったのはホストクラブやコンセプトカフェへの支払いで、48人(約4割)がこれに当たるとされた。警視庁は「困難を抱える女性への支援を強化する」との姿勢を示している。
2026年1〜6月の検挙がのべ40人にとどまっている点は、単純な年換算では2025年を下回る水準である。もっともこれを「街頭売買春が減った」と読むか「見つけにくくなった」と読むかは、現時点で確定できない。集英社オンラインの取材はむしろ後者の可能性を示している。
女性たちはどこへ移ったか
分散化の指摘は、今回が初めてではない。日刊SPA!は2026年2月21日、元セクシー女優の高梨あや氏による現地取材記事を掲載し、大久保公園そのものではなく、新宿中央部のバッティングセンター付近、ラブホテルの入り口、雑居ビルの出入り口といった場所に人が散っていることを報告していた。時間帯によっても濃淡があり、午後4時台はほとんど人がおらず、午後6時台に取引とみられる動きが確認され、深夜0時半には人数が減る一方でホテル街周辺には残っていた、としている。
集英社オンラインが8月に取材した状況も、この分散の延長線上にある。同記事は新宿区の説明として、町会・警視庁・東京都・区が委託した警備員による合同パトロールが続けられており、「2、3年前と比べて絶対数は確実に減っている」との認識を伝えている。「SECURITY」と記されたベストを着た警備員が巡回する態勢である。
一方で女性側は、摘発を避けるための行動を取っているとされる。同じ場所に長く立たない、人目につきにくい場所で待つ、声をかけられた際には「人を待っている」と説明する、といった対応である。取材に応じた女性の一人は、警察に「移動して」と言われるとコンビニで時間をつぶす、と話したという。買う側の間では、こうした歩き回る形態を「歩きんぼ」と呼ぶ言い方も生まれている。
活動時間は、会社員が仕事を終える夕方から終電前までが中心で、特に週末に動きが多いと報じられている。
残ったのは「買う側」
8月15日配信の続編は、女性の姿が減った公園周辺に、買う側の男性たちが依然として集まっている実態を伝えている。記事によれば、現在この場所では女性より男性のほうが多い状態になっているという。
取材に応じた男性たちの証言として、次のような内容が紹介されている。
- 20年以上通っているという70代の男性は、女性を選ぶ基準について「立っている回数が多くなると、バリューが下がる」と述べ、昼間の仕事をしながら生活費が足りない「普通の子」を求めていると語った
- 千葉から月に一度通うという60代の男性は、近くの出会い喫茶で知り合った人物をきっかけに5年ほど通っていると説明。女性の数に対して男性が多く集まる状況を「男祭り」、同じ女性を買ったことがある客同士を「キョウダイ」と呼ぶ隠語があると話した
- 週3回訪れるという40代の男性は、この場所が中高年男性の社交の場になっている面を指摘し、あだ名で呼び合う「いつめんおじ」が100人以上いると語った。引退した男性が会話だけを目的に訪れ、女性側も相手にする気がないときはコンビニで買ってもらう程度の対価で応じることがある、という
また4〜5年で3桁から4桁の人数を買ったと自称する男性は、店舗型の性風俗ではなく路上を選ぶ理由について「性風俗店だと、写真と実物がかなり乖離していることがあります。でも、ここなら顔を直接見られるので、ごまかしようがない」と述べたとされる。
これらは取材対象者の自己申告であり、人数や頻度を裏づける客観的な資料はない。記事も本人の語りとして紹介している。
「売る側だけ」を取り締まる構造
一連の報道が浮かび上がらせているのは、取り締まりの対象と、その場に残る人の非対称である。
売春防止法は、公衆の目に触れる方法での勧誘や客待ち(第5条)を処罰の対象とし、周旋や場所提供、資金提供なども罰則を置いている。一方で、成人同士の売買春そのものは違法とされながら、買った側を直接処罰する規定はない。街頭で摘発されるのは立っていた女性であり、同じ場所に何年も通う買い手は、原則として検挙の対象にならない。
その結果として起きているのが、今回報じられた光景である。取り締まりの圧力を受けた女性は公園を離れ、より人目につかない場所へ移り、頻繁に位置を変える。買う側は移動する必要がないため、その場に残る。可視性が下がったのは供給側だけであり、需要側は残ったままになる。
この構造は、支援の側から見ると難しさを増す。公園という特定の場所に人が集まっていれば、行政や民間団体のアウトリーチはそこへ行けばよかった。分散して歩き回る形になれば、声をかけること自体が難しくなる。2025年の検挙者112人のうち約4割がホストクラブやコンカフェへの支払いを動機に挙げていたことを踏まえれば、接触の機会が失われることは、借金や依存の連鎖を断つ機会が失われることでもある。
若年層の入り口も路上にある
街頭での接点は、売る側の入り口の側にもある。
FNNプライムオンラインは2026年8月12日、新宿駅東口周辺での男性地下アイドル(メン地下)による路上勧誘の実態を報じた。同記事によると、記者が確認した午後9時半ごろには約20人がビラを配っており、自身の写真とQRコードを載せたビラを若い女性に手渡して公演へ誘導していた。関係者は「20代、30代のほか10代も対象にする」と説明したという。
同記事では、中学生のころからメン地下に通い、総額300万円をつぎ込んだ15歳が、その資金を得るために歌舞伎町で路上売春をしていた事例が紹介されている。警察へのメン地下関連の未成年に関する相談は、2022年の4件から2023年に24件へ増え、2026年は年半ばまでに11件が報告されているとされる。新宿区の勧誘に関する規制は飲食店やカラオケなど特定の業種に限られており、渋谷区より対象が狭い点も指摘されている。
毎日新聞も2026年8月6日、夏休み期間に歌舞伎町へ居場所を求めて集まる10代に向けて、売春や薬物への注意を呼びかける取り組みを報じている。
背景
大久保公園周辺の街頭売買春が社会問題として大きく取り上げられるようになったのは、2023年前後である。当時は悪質ホストクラブの売掛金問題が広く報じられ、ツケを返すために性風俗や街頭に向かう女性の存在が指摘された。2025年6月に施行された改正風営法は、売掛金による支払い困難な状態に陥らせる営業やスカウトバックを規制対象とし、2026年に入ってからも違法スカウトグループやソープランドの摘発が続いている。
こうした一連の対策は、いずれも「女性を性を売る側に送り込む経路」を断つことに主眼がある。スカウト、ホストクラブ、あっせん、場所提供と、供給側の連鎖に順に規制の網がかけられてきた。
その一方で、需要側に手をつける議論は進んでいない。買った側を処罰する、いわゆる「北欧モデル」については日本でも紹介されてきたが、制度化の見通しは立っていない。法務省の有識者検討会では売春防止法の見直しが議論されているものの、成人間の売買春をどう位置づけるかという核心部分の結論は出ていない。
大久保公園から人が消えたことは、パトロールと摘発という手段が可視的な光景を変える力を持つことを示している。同時に、そこに残ったのが買い手のほうだったという事実は、この手段が届く範囲の限界も示している。行為の場所が変わっただけで、それを成り立たせている需要と、女性を路上へ押し出す借金や生活困窮の構造は、いずれもその場に残っている。
本記事は集英社オンライン、日刊SPA!、共同通信、日本テレビ系(NNN)、FNNプライムオンライン、毎日新聞等の報道をもとに構成しています。個々の証言は取材対象者の説明であり、客観的に裏づけられた事実と断定できるものではありません。