7月29日の判決――求刑通りの懲役20年
広島地裁(國分進裁判長)は2026年7月29日、強盗殺人の罪に問われた少年(犯行時16歳、判決時17歳)に対し、検察側の求刑通り懲役20年を言い渡した。テレビ新広島(広島ニュースTSS)、RCC中国放送などが報じた。裁判員裁判で審理された事件である。
判決などによると、少年は2025年4月、共犯とされる当時18歳の男女2人と共謀し、広島県府中町の水分峡森林公園で、東京都練馬区の会社員男性(当時52歳)の頭部を木の棒で殴って死亡させ、財布から現金約8万1000円を奪ったとされる。男性は外傷性ショックで死亡したと報じられている。
公判の争点は、少年に殺意があったかどうかと、少年に刑事処分を科すことの当否だった。弁護側は殺意を否認し、保護処分が相当だと主張していたが、判決はいずれも退けた。裁判長は、少年が「状況に応じた合理的な行動」を取っていたことから殺意を認定。犯行を「短絡的かつ身勝手」であり「危険かつ悪質」と評価した。
被害者はどのように呼び出されたか
この事件を特徴づけるのは、被害者の誘い出し方である。
RCC中国放送が伝えた裁判の詳報によると、少年は当時交際していた女性がSNSで「パパ活」をしていることを知り、女性に対して「パパ活相手を広島に呼べ、金を取る」という趣旨の指示を出した。女性はおよそ10人の男性に連絡を取り、そのうち最も早く応じたのが、東京から広島へ向かうことになった被害者だったという。
つまり被害者は、無作為に襲われたのではない。金銭を伴う私的な関係に応じる意思を示した約10人の中から、最も速く反応した1人として選別されている。加害側にとっては、待ち伏せの場所も時間も、相手の到着に合わせて設計できる構図だった。凶器の木の棒は事前に用意されていたと報じられている。
女性は法廷で、被害者のズボンを下ろして撮影するよう指示されていたとも証言している。金銭の強取だけでなく、後から強請る材料を確保する段取りまで含まれていたことになる。
3人の処分――「特定少年」と16歳の違い
3人はそれぞれ別の手続で処分されている。
| 立場 | 犯行時年齢 | 処分 | 時期 |
|---|---|---|---|
| 主犯格の少年 | 16歳 | 強盗殺人罪で懲役20年(求刑通り) | 2026年7月29日・広島地裁 |
| 男(海田町) | 18歳 | 強盗致死罪で懲役18年(求刑通りと報じられる) | 2026年7月上旬・広島地裁 |
| 女(松山市) | 18歳 | 恐喝などの非行事実で少年院送致 | 家庭裁判所 |
当時18歳だった男は、2022年4月施行の改正少年法でいう「特定少年」にあたる。特定少年は原則逆送の対象事件が拡大され、起訴後は実名報道も可能になる区分である。報道によれば、この男は報酬として3万円を約束されて犯行に加わったとされ、判決は主犯格の少年に「引き込まれた」立場と認めつつ、金品を得るために積極的に関与したと評価した。なお罪名について、報道各社の表記には「強盗致死」と「強盗殺人」の揺れがあり、ここでは多くの報道が用いている強盗致死として扱う。
一方、主犯格は犯行時16歳であり、特定少年には含まれない。それでも刑事裁判にかけられ、有期刑としては最も重い部類の量刑が科された。
なぜ「懲役20年」が上限なのか
この20年という数字は、裁判所が自由に選んだ数字ではない。少年法の枠組みで導かれた上限である。
強盗殺人罪(刑法240条後段)の法定刑は、死刑または無期懲役しかない。ところが少年法51条1項は、罪を犯したとき18歳未満だった者について、死刑をもって処断すべきときは無期刑を科すと定めている。犯行時16歳の少年に死刑はありえない。
さらに同条2項は、無期刑をもって処断すべきときであっても有期の懲役を科すことができるとし、その場合の刑を「10年以上20年以下」と定める。つまり、この事件で裁判所が選べたのは「無期懲役」か「10年以上20年以下の有期懲役」かであり、有期を選んだ以上、20年がその天井だった。
判決が求刑通りの20年となったことは、裁判所が保護処分を退けたうえで、有期刑を選択しつつ、その枠内で最も重い刑を科したことを意味する。無期を回避した点で更生の余地を残しつつ、量刑としては可能な限り重くした、という判断の形である。
判決文に書かれなかった成育歴
弁護士ドットコムニュースは2026年8月5日、この判決の背景として、公判で明らかにされた少年の成育歴を詳報している。
同記事によれば、少年は養父から著しい虐待を受けて育ったとされ、ガムテープで体を巻かれて水に浸けられるといった行為も含まれていたという。公判で証言した精神科医は、こうした経験が少年に「誤った正義感」を植えつけたと指摘した。すなわち、悪いことをしている相手は暴力で罰してよい、口で言って分からなければ殴ってもよい、という認知の歪みである。
被告人質問で少年が語った動機も、この線上にある。テレビ新広島の報道によれば、少年は「男性にパパ活をやめさせたかった」「女性に罪悪感を抱かせたかった」という趣旨を述べていた。金銭の強取が目的でありながら、本人の内面では制裁の物語として組み立てられていた、ということになる。
弁護士ドットコムニュースは、4回の公判でこの成育歴が扱われたにもかかわらず、判決文には具体的な記述が盛り込まれなかった点を指摘している。量刑には反映されうる事情が、記録として残る文書には現れなかったという指摘である。
背景――「通報されない相手」という設計
この事件が性風俗を扱うメディアにとって無関係でないのは、標的の選び方にある。
店舗を介した性風俗は、少なくとも第三者が間に入る。店には所在地があり、営業の許可があり、客との間に料金と時間のルールがあり、トラブルが起きれば店が介入する。これは働き手にとっても客にとっても、密室化を一定程度は防ぐ仕組みとして機能してきた。
SNS上の個人間の「パパ活」には、その介在がない。待ち合わせ場所は当事者が決め、身元は互いに確認されず、何が起きても記録は残らない。そして決定的なのは、被害に遭っても警察に相談しにくいという点である。金銭を伴う私的な関係を持とうとしていた事実そのものが、被害申告のブレーキになる。
この「申告されにくさ」は、加害側から見れば標的としての条件になる。歓楽街のぼったくり、いわゆる美人局、路上での客への強盗——夜の街の周辺で繰り返されてきた犯罪類型は、いずれも被害者が声を上げにくい立場に置かれていることを前提に設計されてきた。今回の事件で約10人に連絡が取られ、最も早く応じた1人が選ばれたという経緯は、その設計思想が個人間のマッチングにそのまま移植されたことを示している。
そして、加害の心理的ハードルを下げるもう一つの要素が、「パパ活をする男は多少ひどい目に遭っても仕方がない」という社会的なまなざしである。少年が語ったとされる動機は、まさにその論理を内面化した形をしていた。判決はこれを「短絡的かつ身勝手」として明確に退けたが、法廷の外にあるこの種の空気そのものは、量刑では処理できない。
被害者が誰であれ、頭部を木の棒で殴って命を奪い金を取ることは強盗殺人である。判決が確認したのはその当たり前の一点であり、同時にこの事件は、性の売買が店という枠から個人間の連絡先のやり取りへ流出したときに何が起きるかを、最も苛烈な形で示した事例でもある。
なお、少年側が控訴するかどうかは、本稿執筆時点の報道からは確認できていない。
本記事はテレビ新広島(広島ニュースTSS)、RCC中国放送、広島ホームテレビ、中国新聞、弁護士ドットコムニュース等の報道をもとに構成しています。固有の事実は各報道に基づくものであり、報道間で食い違う点や未確認の点は本文中で留保しています。