事件の経緯
静岡県警は2026年7月上旬、来店した女性客のスマートフォンを取り上げて飲食の追加注文を迫ったとして、静岡市葵区のホストクラブ「Club ACQUA SHIZUOKA」の従業員でホストの男(22)を風営法違反(威迫等)の疑いで逮捕した。静岡朝日テレビ、静岡放送(SBS)、テレビ静岡、中日新聞などが報じた。
報道によると、男は2026年5月下旬、20代の女性客が初めて来店した際に、酒などの注文を迫る目的で女性のスマートフォンを取り上げ、店から帰りにくい状態にして困惑させた疑いが持たれている。女性は「1万円ポッキリ」「初回90分飲み放題」といった触れ込みに誘われて入店したが、結果的に十数万円を支払わされたという。「こんなはずじゃなかった」として女性が警察に相談したことが、捜査の端緒になったとされる。
「1万円ポッキリ」の触れ込みと高額請求
各社の報道を総合すると、今回の事案は次のような経緯だったとされる。
- 女性客は「初回90分・飲み放題で1万円ほど」という安さを前面に出した勧誘で来店した
- 入店後、カバンやスマートフォンを取り上げられ、店外への連絡や退店が難しい状態に置かれた
- ホスト側から追加の飲食を繰り返し求められ、支払額は当初案内の十数倍にあたる十数万円に膨らんだ
安価な「お試し料金」で客を呼び込み、店内で身動きが取れない状況をつくって高額な支払いに追い込む——という手口が問題視されている。静岡中央署は、こうした営業が店の方針として行われていた可能性もあるとみて、運営法人の関与についても調べている。報道では、法人も書類送検される見通しと伝えられている。
改正風営法の「威迫」規定を県内で初適用
今回の摘発で注目されるのは、2025年6月に施行された改正風俗営業法(風営法)の新設規定が適用された点である。静岡県警がこの規定を適用して逮捕に踏み切ったのは、県内で初めてとされる。
改正風営法は、社会問題化した「悪質ホストクラブ」への対策として、これまで刑事事件として立件しにくかった行為を新たに禁止・処罰の対象に加えた。主な柱は次の通りである。
- 料金や飲食内容についての虚偽の説明
- 客の恋愛感情などにつけ込んで飲食や支払いを求める行為
- 客を不安にさせ、あるいは威迫して注文・支払いをさせる行為
- 支払いのために客へ性風俗店での勤務やアダルトビデオ出演を求める行為
今回の事案は、このうち「威迫して注文をさせる行為」にあたるとされる。スマートフォンという生活必需品を取り上げて客を店内に留め置き、心理的な圧力の下で注文を迫ったことが、新設された禁止規定に該当すると判断されたとみられる。
各地に広がる「県内初適用」
改正風営法をめぐっては、施行後、各地で「県内初適用」の摘発が相次いでいる。ホストクラブの売掛金(後払いのツケ)の取り立てに関する威迫容疑では岡山県内で、売掛金の返済を名目に性風俗店での勤務を求めた容疑では鹿児島県内で、それぞれ初適用の摘発が報じられている。
今回の静岡の事案は、これらとは異なり「売掛金」を介さず、初回来店の客に対して店内でその場で高額な注文を迫ったという類型である点に特徴がある。恋愛感情や長期の依存関係を築く前段階、いわば「入口」での威迫的な営業にも改正法が適用されうることを示した事例といえる。
なお、報道で伝えられている事実関係には、なお捜査の進展によって変わりうる点も含まれる。逮捕は容疑の段階であり、起訴・有罪が確定したものではないことに留意が必要である。容疑者の認否についても、報道段階では明確に伝えられていない。
背景――「安さ」を入口にした夜の街のトラブル
「1万円ポッキリ」「初回無料」といった安価な料金を入口に客を呼び込み、店内で高額な支払いへ誘導する手法は、ホストクラブに限らず夜の繁華街のトラブルとして長く指摘されてきた。従来、こうした料金トラブルは民事上の争いとして扱われがちで、刑事事件として立件されるハードルは高かった。
改正風営法は、恋愛感情や「ツケ」を利用して客を縛る悪質ホスト問題を主な標的として設計されたが、今回の静岡の事案は、その枠組みが「その場での威迫的な高額請求」という、より一般的な繁華街の客引きトラブルにも及びうることを示している。どこからが処罰対象の「威迫」にあたるのかという線引きは、今後の摘発と司法判断の積み重ねによって形づくられていくとみられる。
安さをうたう勧誘の裏で、スマートフォンを取り上げて客の自由を奪うという行為が刑事摘発の対象となった意味は小さくない。地方都市での初適用となった今回の事案は、改正法の運用がどこまで広がるかを占う試金石のひとつといえる。
本記事は静岡朝日テレビ、静岡放送(SBS)、テレビ静岡、中日新聞Web等の報道をもとに構成しています。固有の事実は各報道に基づくものであり、食い違う点や未確認の点は本文中で留保しています。逮捕は容疑の段階であり、有罪が確定したものではありません。